映画『キースヘリング〜ストリート・アート・ボーイ〜』

オンライン試写会にて拝見しました。

キースヘリングは、よくわからない大御所でした。
作品の中に差し込まれた年を自分に置き換えると、
1980年は中学生だったし、
1986年は、高校を卒業した年、
つまり、彼が世界的にフューチャーされて、これが旬と売り出されるタイミングは、私が手探りで世の中に出るころに重なるのです。

だから、ちっともわからないわけ。
むしろ、打ち破るべき既存のカルチャーのような気がしていました。
実際は、進行形の現代アートなわけですけれど。

思えば、私は子供だったなと思います。
世界を振り向かせたかった、
すごいと思われたかった、
正確には、ここにいっていいよって言って欲しかっただけなんだけど。

そういうこじらせ、とんがり子供にとって、
キースヘリングは、よくわからないカルチャー、受け入れてはいけないアートだったのです。

今改めて見てみると、彼が愛すべき存在だったとわかるけれど
彼のアートは、やっぱり好きにはなれない。これはもう若き日の刷り込みでしょう。好みみたいなのは、死ぬまで治らない。死んでも治らないかも。
だから、好き嫌いなら、好きじゃないし、いい悪いなら、別に悪くないけれど、いいとはちっとも思えない……です。

まー、ホラ、基本的な好みがラファエル前派バーン=ジョーンズとか、印象派とか、オランダこってり画風だったり、アールヌーボー、ルイス・T・ティファニーだったりするからさ、そりゃ、折り合わないですよ。ハイ(しみじみ、貴族趣味だよねえ)。

しかし、彼のアートスタイル確立プロセスや画材選びの礼儀正しさは、素晴らしいと思います。素敵ですねえ、いつでも消せるチョーク、なんて謙虚な!

しかし、やっぱり、自分の少し前の世代の人たちの文化であって、「あっしには関係のないことでごんす」みたいなのが沁みついています。
みんな、もう忘れちゃっていると思うけれど、あのころの
「わかっているオレたち、わかんない、お前ら」マウントはすごかったから!
時は、バブルですよ、みなさま。札びらで顔叩く文化ですよ。

今の時代は今の時代でイヤなことも多いし、制限かかり過ぎだし、政府Wスダンダートすぎてわけわかんないし、感染症なんかヤバくて、閉塞感いっぱいですけれど、好景気イケイケ、バブリーな時代は時代で、もっと陰影がくっきりしていて、「持てる側」に回れたら、そりゃ幸せだろうけれど、「持たざる側」「何物でもない側」に回ると、もしかしたら、今よりもよっぽど厳しいかもしれないわけで。ホント、若くてかわいくてスタイルがよくて、ノリがいい女の子には、最高の時代でしたね。若さしかないと、ホントつらかったよ。今の多様性、おひとり様万歳、プチプラOKの時代、ホント、悪くないから! 生きやすいからね!

オリンピック開会式によってあぶりだされた過去の不祥事とか、エグいでしょ?あれが許容されちゃう空気があったんですよ。平成が始まる前後10年くらいの間には。

そんな中、キースヘリングは、「イケているアート」で、
「売れているアーティスト」。
しかも、エイズで亡くなったとは!
どんだけ、時代の寵児なのでしょう。

「忌むべきもの」「打破すべきもの」「自分には関係のない物」だったから、この映画でやっと向き合った感じです。
1958年5月4日ー1990年2月16日、ちょうど10歳上、早熟な才能、時代を駆け抜けた人なのですね。

私の中には、ジャクソン・ポロックの 「くそっ、あいつ(ピカソ)が全部やっちまった!」が強く残っていて(ここに光を当ててくれたポロック展の素晴らしさよ!)、
現代アートを考える時に、いつもポロックに立ち戻るのですが、
ポロック没が1956年8月11日、その後に生まれたキースヘリングには、ポロックが感じた壁や限界がありません。

これは、現代アメリカのトラウマになっているベトナム戦争をキーにするといいのかな?と今、にわかに調べてみたら、ベトナム戦争には、年代がないのですね!
ずっと侵略され、ずっと戦っています。どれほど重要な地点なのでしょうか。

1961年1月20日に生まれたケネディ政権で、アメリカの軍事介入が行われ……。
1965年3月8日、ジョンソン大統領によるアメリカ軍の上陸……

キースヘリングが背負っている時代背景は、そのあたり。

作中の「日常の外側に世界がある」とか、バッテンつけた人の周りに4つの人物が伸びている図とか、よかったです。出会い方が違ったら、仲良くなれたかもしれないなー。恋人とのエピソード、いかに狂乱の中にいたか、切なくて、やるせなくて、愛すべきキースヘリングです。

配給はこちら。
madegood.com/keith-haring-street-art-boy/…

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2021年8月13日 | カテゴリー : 日々のこと | 投稿者 : 章月綾乃