2025映画54『黒川の女たち』

かつて「満州国」が13年間あり、それは、実質、日本による中国への侵略でした。中国人が耕した田畑を、建てた家を奪い、日本人が移住して支配していく。

そんな風に歴史的な背景から語り出す。わかりやすい。

が、日本は第二次世界大戦で敗戦、土地や家を奪われた中国人、そして、ソ連軍からの激しい追撃を受ける。

岐阜の黒川から移住していた黒川開拓団は、集団自決を回避するために、ソ連軍に18歳以上の女性15人を性奉仕のために差し出す。
うち4人は性病罹患などで死亡。生き残った女性たちは日本に戻って来られるが、やっとたどり着いた母国で「汚い」と排斥され、性奉仕の事実は隠蔽される。この女性たちの生き残りが声を上げて、作られたドキュメンタリー。

個人的に思ったこと

1.事実がオープンになったのはよかった
2.映画製作者たちの正義感が勝ちすぎている気がする
3.「乙女の碑」の碑文制作を担当することになった四代目遺族会会長のご苦労
4.恒さんの優しさ(帰宅後、三代目遺族会会長と知る。テロップ入れろや)

敗戦後のぐちゃぐちゃな中の話だから、いろいろ仕方ないんだけど。
若い女の子たちがソ連の将校の相手をすれば、使節団全員500人の命が助かるなら、そりゃ、「すまん、堪忍してくれ」になるだろう。
その後、生き延びた後の手のひら返し、売女扱いも、ひどい話だとは思うけれど、時代を考えるとあるだろうなあと納得する。

まず、純潔の価値が今と違うから。
凌辱されたこと、自分が守ったはずの同胞から排斥されること。本当におつらい話だったと思う。

途中、”恒さん”という人物のコメントが1カットだけ入る。
「(性奉仕があったことを)人に言ってはいけない。過去を隠して生きている人もいるんだから。俺は、子供頃に彼女たちの話をずっと聞いていた。(話をオープンにしたら)かわいそうだ」

彼が出てくるまで、「黒川開拓団の大人たちは何を考えているんだ?」と思っていたけれど、やっと腑に落ちて、「そうだよ、そういう考えもあるよね。そういう時代だったよね」と納得がいった。

この恒さんは、遺族会三代目の会長で、映画の製作陣は
「この考えでは、ダメだ。『なかったことには出来ない』」と定義する。
ネットの関連対談記事

ココがすごくひっかかるわけ。
ずっと取材をしていると、「言ってはならぬ」が大きな壁となって、
「なかったことにはできない」がより強く感じてしまうのだろうけれど、
令和の今と戦後、昭和の価値観、ムード、男女の力関係、いろいろ
違うから。

性接待をさせられた女性に光を当てると同時に、
彼女たちを日陰に追いやった人たちにも同じように光を当てないと、
片手落ちだと思う。

でも、 恒さんの言葉を聞かせてくれたのが、精一杯の誠意かもしれない。
さっきの記事でやっと彼が三代目の遺族会会長だったと知る。

三代目で出来なかったから、四代目の「性接待呼び出し係」の息子さん、
もちろん、戦後生まれが「謝罪をし」「乙女の碑の碑文を作って、歴史に残こす」役割を担う。

オヤジがしたこと。
オヤジが死んだ後に、オヤジに成り代わって話を聞く。
四代目遺族会会長は、ずっと丁寧に接していく。
「また来ました」「本当にありがとう」と言い続ける。

きっと私よりも10歳くらい上、または、同世代な感じだろう。
個人的な体験として、子供の頃、「戦争の話」を聞くのは、本当にイヤだった。
同じ事を何度も何度も聞かされる。こんなに大変だった、つらかった、何もなかった、恐ろしかった。聞きたくなかった。

うんざりした。だって、わからないから。
私たちの反応が鈍いから、戦争体験者たちは口をつぐむようになった。
今は、その口をつぐんでいた人たちが他界されていき、本当に体験者がいなくなる時代へ向かっていく。戦後80年。

大人に、もういい年になった今は、「聞いておけばよかった」
「聞いてあげればよかった」とも思うけれど、聞かずに済むならそっちのほうがありがたい。話し手が戦争の記憶にトリップしてしまうから。

四代目会長がどれほど”聞く”ことになったのか。
おねえさんたちの性接待によって、生き残ったから今があるんだよと言われ続けて。

おねえさんたちのご苦労もわかる。
が、四代目会長のつらさのほうが響く。私に出来るだろうか?

そして、三代目会長の恒さんの優しさが伝わってきて、心に残るわけ。

誤解しないで、「公表されるべき」だとは私も思う。
そして、それは、当時者たちの死後ではダメ、伝聞には意味がない。
だから声を上げたことは正解、それを拾った人たちは素晴らしい。

ただ、そのつらさに寄り添うあまり、この作品は客観性を失っていると思う。
命の恩人に対して、村にいられなくなるほど、責め立てた戦後。
人道的にどうなんだと思うよ。
でも、なんかそれが、日本人の本質って気がする。だから、そっちに行かないように私たちは気を付けないといけない。

これだけ、「取り巻く人たち」の気持ちがわかるのに、
ひとつだけ理解が出来ないことがある。
映画の中で「嫁は出せないから、未婚のお前が行け」的なことが起こること。
なぜ、処女たちに奉仕をさせたのか。

ソ連軍が「若い女を」と求めた一面もあるだろう。
でも、経験している若い嫁だっていたはずだろう。

処女性が大事だったのか?
嫁だから出せなかったのか。でも、性接待させられたおねえさんもまた、
誰かの娘だっただろう。
「お母さん助けて」のお母さんは、遠い日本ではなく、満州にいたはず。

なんでそこ、聞かないんだ?
なんでそこ、映画に入れ込まないの?

まったくわからん。

あああ、あともうひとつ!

「我が子を自分の手で溺死させた女性もいた」という話に対して、
この監督は、「どうしてですか?」と聞く。
その質問の冷酷さに、背筋が凍る。
まあ、リハーサルしているんだろうし、話し手も了承しているとは思うけれど、
子殺し、間引きの話に対して、「どうしてですか?」はないだろうよ。
他に言いようもない気がするけれど、本当に距離のある言葉の響きで、
悲しくて仕方なかった。客観性は、そんなところで発揮しなくていいよ(多分、この監督と相性が悪いんだな、私)。

この映画は、田畑の小さな映画館で見たんだけど、とてもいい劇場でした。
行き届いていて、素晴らしい。また、機会があったら、うかがいたい。

CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)CINEMA Chupki TABATA

2025年映画
1.劇映画 孤独のグルメ 2.アーサーズ・ウイスキー3.ショウタイムセブン4.デヴィッド・テナント&クシュ・ジャンボ『マクベス』5.ANORA アノーラ6.F1ow 7.名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN8.アンジーのBARで逢いましょう9.教皇選挙10.BETTER MAN/ベター・マン11.白雪姫12.アマチュア13. ウィキッド ふたりの魔女14.シンシン SI・NG SING15.マインクラフト/ザ・ムービー16.未完成の映画17.パリピ孔明 THE MOVIE18.アンジェントルメン 19.リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界20.サブスタンス21.IT’S NOT ME イッツ・ノット・ミー22.たべっ子どうぶつ THE MOVIE 23.か「」く「」し「」ご「」と「24.ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング25.ビョーク コーニュコピア26.マリリン・モンロー 私の愛しかた27.来し方 行く末28.ぶぶ漬けどうどす29.リロ&スティッチ 30.ババンババンバンバンパイア31.F132.国宝33.生きがい IKIGAI/能登の声 34.メガロポリス35.TOMORROW X TOGETHER WORLD TOUR36.韓国ミュージカル ON SCREEN「エリザベート」37.クリムト & THE KISS – アート・オン・スクリーン特別編-38.フォーチュンクッキー39.盲山40.罪人たち41.ファンタスティック4:ファースト・ステップ42.スーパーマン 43.突然、君がいなくなって44.犬の裁判45.私たちが光と想うすべて46.入国審査47.美しい夏48.この夏の星を見る49.映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ50.ジュラシック・ワールド/復活の大地51.夏の砂の上52.書かれた顔 4Kレストア版53.六つの顔54.黒川の女たち

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2025年8月29日 | カテゴリー : 日々のこと | 投稿者 : 章月綾乃