『たのしい川べ―ヒキガエルの冒険―』
ケネス・グレーアム作、石井桃子訳。
子供のころに好きだった本は、たいてい図書館の本でした。
大人になって、ほとんど買いました。ナルニア国物語、ムーミンのシリーズ、ゲド戦記、アリスに、クマのプー。
でも、この本だけは、なぜか買う機会が回ってきませんでした。
去年、友人が唐突に言い出しました。
「『たのしい川べ』って、あってはいけないものが姿を現すんだよね」
パンですね!
そこから、スイッチが入りまして、3回、図書館で借りました。
でも、開くことが出来ないまま、毎回、ただ返していたのです。なんでしょうね???
一昨日、0時近くに帰宅して、おなかが空きすぎて、どうにもならず、重い荷物をおいてから、サイゼリヤへひとりで行きました。お供は、4回目の正直、『楽しい川べ』です。
最初のページから、懐かしくて。
涙が出そうなくらい、うっとりしました。
春の大掃除、ピクニック、川遊び、雪の森の中……。
私が好きなのは、モグラと川ネズミのくだりで、ヒキガエルは全然受け付けなかったということを思いだしました。
アナグマへの憧れ、たまに出てくるカワウソの存在、古い友達にバッタリ会ったような不思議な時間です。
友人が指摘したパンのシーンは、本当に美しくて。
そうそう、だから、パンの笛に憧れたのだと思いだしました。
というか、この一冊には、私が好きなものがいっぱい詰まっています。
この本が、私の嗜好を作ったのではないでしょうか?
大人になって読んでみると、カワウソの坊やのラストシーンの粋なはからい、そして、海ネズミの話の面白さに引き込まれます。私も、海に繰り出してみたいと強く心が揺さぶられます。
子供のころから大好きだったのは、モグラの家がモグラを呼ぶシーンです。
家が呼ぶ声を振り切って、川ネズミの後を追うモグラがかわいくて、切なくて。で、思い余って、ワンワン泣いちゃうところも、なんだか本当に愛せます。
川ネズミが好きだなあと、今回、ハッキリわかって。
わかったそばから、「ああ、私は川ネズミの性格をコピーしようとしていたんだ」と気づきました。川ネズミの考え方とか行動パターンに、結構、近いです。ただ、私には、いっぱいダメなところがありますけれど。
子供のころは、アナグマに憧れていたのですけれど。アナグマにはなれそうにありません。
昔、「もうやだ、このヒキガエルったら!」って思っていたのが、今では、「仕方ないねえ、ヒキガエルは」って考えられるようになったので。
いつかまた、読み返すとき、「ヒキガエル、最高!」になるでしょうか? それは、ないか。
余談ですが、プーさんでは、私は、イーヨーが好きです。で、トラーは、トラー。決して、ティガーじゃないし、ピグレットもコブタですよ!!!
石井桃子さんの世界にいるのです。
「コールドチキンが入っている」と、ネズミは、かんたんに答えました。
「それから、コールドタンにコールドハムにコールドビーフにキュウリの酢漬けにサラダにフランスパンにサンドウィッチに肉のかんづめにビールにレモネードにソーダ水―」
川ネズミの最初のおもてなしです。
ちょっと、肉々しいメニューかも?
しかし、このくだりは笑いました。
『「もうそろそろ帰ったほうがよさそうだね。だれが、おべんとうのバスケットをかたづけることにする?」』というネズミの言葉に、モグラが引き受けます。
でも、『バスケットのあとかたづけは、バスケットをあけるときのように、たのしくはありませんでした』と続くのです。こういうリアリティというか、小ネタが、なんかもう、この作品のもうひとつの魅力だなあって思います。
昔、ミュージカルも見ましたよ。そういえば。
「別に、ミュージカルにしなくてもいいのに」って思った記憶があります(笑)。
図書館に返す前に、もう一度読みましょうか。
「よく気をつけて、あたらしいのをね! いや、1ポンドでたくさんだ―バギンズじるしのだよ。ほかのは、ぼく、いやなんだ。いや、いちばん上等のを―もしなければ、どこかほかのところにいってみたまえ―ああ、もちろん、自家製のさ、かんづめなんかじゃなく、うん、それじゃ、しっかりたのむ!」
川ネズミが、野ネズミににわかしつらえのクリスマスのごちそうの買い物を頼むくだりです。もうホント、贅沢で、グルメで!!!
川ネズミは、私の人生の師かもしれませんぬ。