映画45『彼女は夢で踊る』

作品に気づいた段階で、もう公開終盤。でも、気になったので、ユーカリが丘まで見に行きました。

広島第一劇場という実在したストリップ劇場を舞台にした映画です。

好きな女の幻が、モチーフ。
『死都ブリュージュ』、『死の都』好きな私としては、絶対にツボるだろうと確信していました。

が、なんかはぐらかされたんですよね。
主役の加藤雅也さん、若き日の同人物を演じる犬飼貴丈さんは、ものすごくハマっているんです。
で、彼を魅了するヒロイン、岡村いずみさんの登場シーンは、忘れがたいファムファタルぶり。素晴らしい。

ところが、ですよ。
大事なストリップシーンで、ヒロインの魅力が激減します。

踊れるコだとわかります。体にムダはない。
なのに、説得力がないのです。

それは、矢沢ようこさんや他のダンサーさんがいるから。
なんだろう、わかっちゃうんですよね。
ヒロインが、ストリッパーじゃないって。

これがもう、致命的でどうにもならない。
プロの中に素人が一人紛れ込んでいて、嘘をついているような、

で、その嘘を見抜けない主人公、加藤雅也さんの役まで間抜けに見えてしまう。
明らかにストリッパーじゃないコを「すごい踊り子だった」的な扱いで
話が進んでいくから、「いやいやいや」って、ずっと思ってしまって。

ただ、話が戻るのですが、登場シーンは悪くないんですよ。
わくわくしたし、「そうか、こういう色気、忘れていたね」って思ったし。

なのに、もう致命的に「フェイク」なのですよ。岡村いずみさんのサラが。

全然、わからないし、同性のストリップを見ても、異分子にしかなれないだろうから、これは私にはわかりえない何かなんだけれど。
ストリップ劇場でやりとりされる何か、もっとも価値のあるものが、
欠落したまま、「夢」と定義されるから、すごく座りが悪く、心地悪く、
「すべて魅せる」「ハダカになる」という体験が、商売が、プロ意識が、
この作品の底辺にないといけないのに、肝心なヒロインに備わっていない。

雑多なムード、猥雑な空気。
作品の中にあった「みんな、忙しくなっちゃった」とか、
「テレビやネットでいくらでもハダカが観られる」で、
いずれなくなっていく文化としてのストリップがあって。

その失われる何か、小屋の闇の中で輝く何かが、ヒロインの中にないというのは、もう本当に絶望以外何物でもなく。
演技力でカバーできない領域で。

本当に話があちこちに戻って恐縮なのですが、私には知りえない世界、
「何かがあるんだろうなあ」と想像しても、手が届かないもの。
だって、異分子でしかないから。性欲と夢の交差する場所は、聖域だから。

ヒロインがフェイクだと気づいてしまうくらい、リアリティがあり、
でも、フェイクが気にならないほど、作り込まれていない。
もう本当にどうしょうもなく、不完全燃焼で。

ミスキャストと切り捨てるには惜しく、じゃあ、岡村いずみさんが
ストリップ劇場に出て、実体験を持って役に挑めばよかったのかって
話になってきて。それは、昭和の精神論で。
うーん、ただ、二役をやるほどの演技力もなかったような気もして。
メロディの稚拙さ、輪をかけたウソ臭さ。
もっと、彼女の身の丈にあった役ならば。
また、話が戻るけれど、サラの登場シーンは本当によくて。あれだけ、出来れば、そりゃ、起用するよねもあって。
肯定と否定が入り混じって、めっちゃモヤります。

まあ、いいや。
これだけ語りたくなる映画というのは、いい映画なのでしょう。

せっかくだから、もうちょっと完成度を上げてくれれば!
失われていくだろう猥雑な文化の残り香、酔わせてくれれば!
私も、幻のストリッパーに恋をしたかったですよ。

ちょっと、ヤケ酒を煽り、ふて寝をしました。
そして、ストリップ劇場には何かがあって。それは、踊り子さんと同性である私には、永遠に届かないものだと歯がゆさを持ち帰ったのです。

1.ジョジョ・ラビット2.パラサイト 半地下の家族3.CATS4.フォード&フェラーリ5.ティーンスピリッド6.盗まれたカラヴァッジ7.1917 命がけの伝令8.9人の翻訳家囚われたベストセラー9.ミッドサマー10.ダンサー そして、私たちは踊った11.レ・ミゼラブル12.ジュディ 虹の彼方に13.ジョン・F・ドノヴァンの死と生14.ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY15.シェイクスピアの庭16.三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実17.ドクター・ドリトル18.Fukushima50 19ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語20.今宵、212号室で21.ワイルド・ローズ22.Mother/マザー23.レイニーデイ・イン・ニューヨーク24.はちどり25.ペイン・アンド・グローリー26.ナショナルシアターライブ『夏の夜の夢』27.グレイテスト・ショーマン28.プラド美術館 驚異のコレクション29.17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン30.弱虫ペダル31.思い、思われ、ふり、ふられ32.アニメーション「思い、思われ、ふり、ふられ」33.僕たちの嘘と真実 DOCUMENTARY of 欅坂4634.パヴァロッティ 太陽のテノール35.窮鼠はチーズの夢を見る36.青くて痛くて脆い37.アニメーション「思い、思われ、ふり、ふられ」38.映像研に手を出すな39.とんかつDJアゲ太郎40.TENET41.鬼滅の刃 無限列車編42.フードラック! 食運43.ホモ・サピエンスの涙44.ウルフウォーカー45.彼女は夢で踊る


このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年12月2日 | カテゴリー : 日々のこと | 投稿者 : 章月綾乃